研究トピックスの紹介

欠陥を有するトンネルの耐震性能に関する研究

高度成長に矢板工法により施工されたトンネルにおいては,当時のコンクリート打設技術や施工管理方法等に起因して天端部に巻厚不足や背面空洞,ゆるみ領域が存在することが報告されている.さらに,供用から数年~数十年経過したトンネルにおいて,周辺地山の強度の低下によって,盤ぶくれ等の大変状がしばしば報告されている。これらのトンネルは地山の力学特性や荷重状況等が設計時から大きく変化し,地震時に必ずしも安全とは言えない.そこで本研究では,トンネルの裏に空洞もしくはゆるみ領域といった劣化領域が存在する場合,その劣化領域がトンネルの地震時挙動について検討する.

交通地盤構造物の維持管理・改良

道路・鉄道・空港は,人・物・情報の移動を支え都市の発展に大きな役割を果たしている.こうしたインフラを維持できなくなると,その国が衰退すると言われている.道路や鉄道あるいは空港施設等が建設された後,供用が開始されると自動車や列車,航空機等が日常的に走行することになる.交通荷重を繰返し受け,さらに雨や雪,太陽光などの気象環境にさらされると,施設の材料が劣化し,構造に不具合が生じることがある.道路が突然陥没したり,真夏に鉄道のレールが突然ゆがんだりして,施設が供用できなくなることがある.そこで,このような交通地盤工学における“リスク”を最小化するために,地盤工学が取り組むべき課題として,交通地盤構造物の維持管理・改良に関する研究を行っている. 

内部侵食に伴う砂質土の保水性の変化に関する研究

内部侵食は,土の間隙の増加および粒度の変化をもたらし,その発生によって土が不安定化し河川堤防の安定性が低下するとの指摘がなされている.一方,豪雨時における堤防の安定性は,強度のみならず水の浸透しやすさ,すなわち保水性によっても大きく影響されると考えられるが,内部侵食の伴う保水性の変化に対する検討は十分と言えない.そこで本研究では,内部侵食に伴う地盤の保水性の変化を明確にすることを目的として,粒度分布と間隙比を指標とした保水性の統一的なモデル化を試みる.

地盤材料のカーボンリサイクル

2009年のG8ラクイラ・サミットで,世界のGHG(温室効果ガス)排出量を2050年までに半減する目標を再確認し,この一部として,先進国全体で80%以上削減するとの目標を支持する旨が表明された.このような状況のなかで,2050年に向けて化石燃料の利用に伴うCO2の排出を大幅に削減していくためには,あらゆる技術的な選択肢を追求していく必要がある.こうした観点から,経済産業省はCO2を炭素資源(カーボン)と捉え,これを回収し,多様な炭素化合物として再利用(リサイクル)するカーボンリサイクルを推進している.そこで地盤工学が取り組むべき課題として,地盤材料などを製造する際に,その内部にCO₂を吸収させる,地盤材料のカーボンリサイクルに関する研究を行っている

節点ベース要素で拡張した弾塑性 NMM-DDAの開発と検証

歴史的な石積の建造物には,その基礎地盤の変形・破壊に起因し崩壊に至るものが少なくなく,近年地盤工学に基づく崩壊メカニズムの解明と合理的な修復方法の検討が求められている.本論文では,地盤と石積の複合構造物の変形解析法の開発を目的として,不連続体解析手法 NMM-DDA(マニフォールド法―不連続変形法連成解析)の高度化を試みた.具体的には,増分形の支配方程式に弾塑性構成則を導入した弾塑性 NMM-DDA の定式化と,従来の定ひずみ三角形要素をベースとする NMM-DDA で課題となる体積ロッキング回避のための節点ベース均一ひずみ要素の応用について示した.開発手法は弾性梁の曲げ問題や,帯基礎の支持力問題といった基礎的な境界値問題に適用し,理論解との比較によりその精度を確認した.

三軸試験による岩盤の変形異方性の特定方法

堆積構造や鉱物粒子の配列方向に応じて岩盤は異方的な力学特性を持つ.従来,このような岩盤の異方性は,方向を変えてサンプリングした複数の岩石供試体の三軸試験により調査してきたが,労力や時間,コストの観点で効率的ではない上,異方性の卓越方向を必ずしも特定できなかった.これに対して本検討では,堆積岩など面内等方性を仮定できる異方性岩盤の変形特性を,1 回の試験で特定する三軸試験の方法を提案する.理論解析の結果,提案方法は等方圧密時の主ひずみ方向から異方性の卓越方向を特定するとともに,等方圧密時と軸圧縮時の応力とひずみの関係から面内等方弾性体の 5 つの弾性パラメータをすべて特定できることが示された.